Blog

遺言書は書くべき?書いた方が良い人は?

 

 遺言書と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか?

 

 資産家が亡くなった時に、一族がいっせいに集まり、そこで弁護士が物々しい雰囲気で遺言書を読み上げる。といった昔のドラマみたいなイメージをお持ちの方は、もはやいらっしゃらないとは思いますが、遺言書の内容に、お金目当ての資産家の子供たちが一喜一憂するというありがちなあのシーン、遺言書に拘束力があるという意味では、イメージとしては間違いではありません。

 

 遺言書記載されている内容は、法定相続分や遺産分割より優先されます。例えば、「妻に私の全ての全財産を相続させる」とか「〇〇の土地家屋は、長男に相続させる」という遺言を残しておけば、原則、他に相続人がいても、その望みどおりになります。

 相続が発生すると、遺言書がない場合、財産は相続人全員の共有になります。家や預金からペン1本まで、簡単に分けられるものそうでないもの問わず共有です。でも、遺言書があると、記載された財産は、遺言書で書いた指示に縛られます。

 遺言を作成される方の目的で一番多いのは、ご自身の死後に、争いやトラブルが起きることを防ぐことです。財産の処分方法を指定できるということをうまく活用して、残された人たちを守るのです。

 

 ここからは、遺言書の作成をおすすめするケースを紹介させて頂きます。

1.子供のいない夫婦

 お子さんがいないご夫婦の場合、どちらかが亡くなると、相続人は、亡くなられた方の配偶者と亡くなられた方のご両親又はご兄弟になります。

 先程、遺言書がない場合、財産は相続人全員の共有になると書きましたが、それの意味することは、

   「みんなのもの=みんなの同意が必要=ひとりで勝手に処分できない」

ということになります。具体的に言うと、自宅や車のの名義書き換えから銀行口座の解約まで、ありとあらゆる手続きは、相続人全員の同意が求められます。電話超しに「いいよ!」っていう簡単な話なら良いのですが、原則、相続人全員の自書、ご実印による捺印、印鑑証明書が必要です。残された配偶者に大変な負担がかかります。いくらご両親や兄弟と仲が良くても、実印や印鑑証明書をもらったり、話し合いをまとめるのは容易なことではありません。

 こんな時、遺言書さえあれば、残された配偶者の負担を減らせるとともに、財産も残してあげられます。

こんなことがありました

 ご依頼があったのは、旦那さんをなくされた女性でした。お子さんはいらっしゃらず、旦那さんのご両親も他界されているため、旦那さんのご兄弟が相続人でした。ただ、ご兄弟も何人かお亡くなりになられているので、そのお子さん、旦那さんから見て甥や姪が相続人に含まれており、相続人は総勢14人でした。

 全員に連絡を取るだけで、相当な日数を要します。というのも、電話番号がわかる方は限られているので、最初は住所を調べて手紙でのやり取りになります。そこから電話番号を聞いたりして、今度は遺産の処分内容を決めますが、全てバラバラにやり取りした上でまとめなくてはなりません。13人賛成しても1人が反対するとやり直しです。この時幸いだったのが、旦那さんの弟さんが率先して動いて頂き話をまとめてくださったのと、何より相続人全員お元気で、集まることができたことです。

 そんなこんなで、とある休日に、ご依頼の女性宅マンションに他の相続人13名と私が集まったのですが、部屋はギュウギュウで、座るのも大変でした。ひとりずつ順番に内容を説明し、署名ご捺印頂いたのですが、2時間以上かかったのを覚えています。この時は、全財産、奥様である依頼人女性が相続するという内容で落ち着いたのですが、ハンコ代と称して、ひとりひとりに20万円ずつお支払いされていました。また、14人の予定を調整して集まることが容易でなかったのも言わずもがなです。

 旦那さんがお元気な時に、周囲に遺言のアドバイスをする人がいれば、残された奥様のご負担も無かったのにと思いながらお手続きさせて頂いた案件でした。

2.身内が兄弟姉妹だけの方

 配偶者やお子様のいらっしゃらない方も、遺言書を作成しておくと、ご自身がお亡くなりになられた後、周囲の方々の負担軽減に役立つケースが多いようです。

 予想される相続人(この人達のことを「推定相続人」と言います)が兄弟姉妹だけの場合、同居している兄弟姉妹がいるいないにかかわらず、お子様のいないご夫婦の残された配偶者同様に、相続手続きの煩雑が予想されます。兄弟が少なくても、年齢を重ねると、相続人の対象が、甥御(おいご)さん、姪御(めいご)さんまで増えてくるかもしれません。転ばぬ先の杖ではありませんが、未然に対策を講じておくのもよろしいかと。

こんなことがありました

 相談者Aさんのお亡くなりになられたお姉さまは、結構な資産家でした。生涯独身でお子様もおらず、ご両親も亡くなられているため、相続人は、ご兄弟と甥御さん、姪御さんでした。

 法事で親族が集まられた際、事が発覚します。その席で、Aさんに対して、親族の態度がよそよそしいうえに白い目を向けられます。なぜなのか疑問に思ったAさんは、周囲に尋ねたのですが、なかなか答えてくれません。Aさんが不愉快になり帰ろうとすると、お兄さんの一人が怒りながらAさんに言いました。
「お前の息子が姉貴の遺産を独り占めしたけど、知ってたのか!」
と。続けて一斉に、無視していた他の親族からも罵声を浴びせられました。何のことだか分からないAさんが事情を聞くと、経緯はこうでした。

 生前、Aさんの息子さんを可愛がっていたお姉さまは、自分の財産を全てAさんの息子さんに遺贈するという遺言書を残しました。Aさんの息子さんは、当然ご存じで、お姉さまが亡くなられた後、遺言書を基に全財産を引き継ぎました。Aさんもご兄弟もそのことを誰も知りませんでした。後日、ご兄弟の一人が、遺産の分配について話し合いをするために遺産状況を調べようとしたところ、Aさんの息子さんが全財産を引き継いだことを知りました。怒ったその方は、Aさん以外の身内に、「あの野郎!」ということで話をしたため、Aさんは露知らず、親族から袋叩きのような目にあったのです。

 Aさんは、私に、他の親族に財産が相続できないかというご相談をされたのですが、結論から言うと、今回のケースでは、ご兄弟の方々に相続分はありません。遺言書によって、財産の処分方法が指定されているからです。相続権を主張できる遺留分という言葉を聞いたことがあるかもしれません。詳しくはあらためて解説させていただきますが、兄弟姉妹には遺留分の権利がありません。なので、主張もできないのです。

 ということで、今回のケースは、Aさんの息子さんが全て財産を引き継ぎました。当然ですが、Aさんも相続人でしたが、一切相続分はありませんでした。その後、Aさんが身銭を切って少しでも補填しようとしたようですが、断られ、親族関係はギクシャクしたままだそうです。Aさんのお姉さまは、良かれと思われたのでしょうが、こうなることを予想されていたかは謎です。

3.離婚後再婚し、以前の配偶者との間にお子さんがいる方

 一番ご相談ご相談依頼が多いケースです。

 離婚後再婚しても、以前の配偶者との間に生まれたお子さんは、その後同居してもしなくても、当然に相続人となります。再婚し新たに家庭を築かれた場合、ご自身が亡くなられた後、現在一緒に生活していないお子さんも相続人となり、財産の分割で揉めると、ご自身とこれまで住んでいた自宅を失うということもあります。そんなときは、今一緒に住んでいる配偶者やその間に生まれたお子さんに、自宅を相続させる旨や全財産相続させるといった遺言書を残されるとよいです。私がお世話になっている先輩は、以前の奥様との間に、ずっと会っていないお子さんがいらっしゃるのですが、再婚後、現在の奥様に全財産を相続させるという遺言書を作成し、さらにお子さんが生まれると、そのお子さんも含めて、全財産を今のご家族が相続するように遺言を書き換えました。

 ご自身の死後、これまで何十年も会っていない疎遠になっているお子さんが、相続分を主張されるということは少なくありません。というよりも必ず主張されると思ってください。

4.事実婚のカップル

 どんなに長い間夫婦として暮らしていても、戸籍上の血縁関係か婚姻関係がないと、相続人となることができません。それぞれ事情があり、戸籍上の婚姻関係が結べないカップルの方も少なくないと思います。そのようなカップルの場合、片方のパートナーが亡くなると、その両親や兄弟が相続人となり、残されたパートナーは、それまで一緒に住んでいた自宅を奪われたり、生活の基盤を失うこともあります。

 そうならないためにも、お互いに、相手方へ遺贈する旨の遺言書を作成しておくとよいでしょう。ご自宅の場合は、わかりやすいと思いますが、事業を共同経営されている場合などは深刻です。亡くなられたパートナーの相続人が、残されたパートナーのことを良く思っていない場合などには、事業の経営権が相続されると、経営自体が破綻する恐れもあります。生活ができなくなっては大変です。

5.身寄りのない方

 独身で、ご両親が既に他界し、ご兄弟もいらっしゃらない方の場合、何もしないと遺産は国のものとなってしまいます。それで構わない場合は、話が終わりなのですが、もしも、お世話になった方や団体に遺産をあげたいと思うのであれば、遺言書で遺贈する旨を書いて、遺産をあげることができます。ただし、もらう側に税金の負担やその他コストが発生することもあるので、受け取ってもらえるか事前に確認することをおすすめします。寄付を受け付けていない団体もあります。

 また、遺言からは話がそれますが、死後の葬儀や遺品整理、行政手続きに不安をお持ちの方もいらっしゃると思います。その場合は、死後事務委任契約というものがあります。気になる方はご相談ください。

むすび

 いかがでしたでしょうか?

 その他、不動産や株式絡みで遺言書があった方が良いというケースなど、遺言書が残された方に有益に作用する場面が多々あります。

 相続は揉めることが多々あります。前回の例のように遺言書があるために揉めることもありますが、うまく利用すれば残されたご家族が助かることが多いのも事実です。

 遺言の準備で早過ぎるということはありません。基本的に、何度でも書き直しができます。判断能力が落ちてからでは、有効な遺言書が作成出来なくなる可能性があります。元気な内に準備することをお勧めいたします。

 遺言の方法や内容など、疑問のある方はぜひお気軽にご相談ください。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

SHARE
シェアする

ブログ一覧

0